医系大への羅針盤 医歯薬進学

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  • 2017.03.02
  • 「教科書を塗りかえる」 気概で臨む
  • 自分にしかできないことをやる、それが研究者としての信条

    早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所
    ヘルスフード科学部門研究院教授 矢澤一良(農学博士)

     

    世界で初めて魚の腸内細菌からEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の産生菌を発見した矢澤一良教授は、研究者としては異色の経歴の持ち主です。京都大学を卒業後、株式会社ヤクルトの中央研究所に勤務、研究者としての道を歩き始めます。その後の道のりは決して順風満帆ではありませんでした。しかし乳酸菌との出会いから、現在の「ヘルスフード科学」に関わる研究・開発に至るまで「オンリーワン」を求め続ける姿勢は一貫しています。矢澤教授に研究職の醍醐味について熱く語っていただきました。

     

    専攻の発酵工学で乳酸菌と出会う

    ――早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所とはずいぶん長い名前ですが、どんな研究をなさっているのでしょう?

     規範科学(レギュラトリーサイエンス)を通して、先端的な研究を産官学連携で推進し、実践的アプローチによって社会のために持続可能な発展に資する成果を追究しています。私の専門は「ヘルスフード科学」で、一言でいえば「食による予防医学」です。
     

    ――早稲田大学に移られる前は東京海洋大学で特任教授をなさっていました。

     はい。東京海洋大学の寄附講座と特定事業で「ヘルスフード科学」プロジェクトを推進していました。予防医学的食品、医薬品素材に関する研究がメインテーマで、「機能性おやつ」の開発なども手掛け、社会に認知されるよう「日本を健康にする!」研究会という推奨活動も行っています。
     

    ――今日は先生の青年時代までうんと遡ってお話を伺いたいのですが。

     私が通っていた神奈川県立湘南高校は、当時、東大入学者数でベストテンに入る進学校でした。1学年55人学級で10クラスあるうち、上位200人ぐらいは東大を目指すんですが、私はだいたい200番前後をうろちょろしていました。理系に進むのは決めていましたから、浪人して東京工業大学あたりを狙おうと思っていたのですが、「記念に一つぐらいは帝大を受験しておけ」と周囲に言われ、湘南高校からは受験する人がほとんどいなかった京都大学を受けることにしたんです。
     

    ――そして見事に合格された。どのような学生時代を過ごされたのでしょうか。

     私が入学した当時はちょうど70年安保の時期で、講義はほとんどなく、レポートを提出すれば単位がもらえた時代です。講義がないから勉強もしませんでした。でも唯一、実験だけはやってましたね。あとはバレーボール部で汗を流していました。体育会系だからきつかったけど、楽しかった。
     

    ――工学部工業化学科に入学されたんですよね。それが現在のヘルスフード科学とどう結びつくのか、不思議なんですが。

     実は、確たる信念や目標をもって工学部を選んだわけではないのです。工学部は1学年、900人。合格発表も1番から900番まで成績順に張り出されます。もちろん受かるなんて思っていませんから、合格発表も見に行かなかった。それで京都に住んでいた親戚の人が見に行ってくれて、「受かっているわよ!」と連絡をくれました。
     工業化学科を選んだのもたまたまで、一番倍率が低かったんです。工学部の工業化学科ですから全体的に工業系の専攻分野が並ぶのですが、その中に発酵工学という研究室(福井三郎教授)があって、酵母と乳酸菌を扱っていました。発酵工学は、微生物を使ってビタミン群やアミノ酸、抗生物質などを作る方法を研究する学問です。2015年に抗寄生虫薬イベルメクチンの開発でノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生の研究も微生物工学です。この「微生物発酵」は薬学系から関わる人もいれば、東京農大名誉教授の小泉武夫先生のように農学系から入る人もいる。私のように工学系の人間もいて、様々な面からアプローチできるユニークな分野といえます。これもたまたま入った研究室の福井教授に「矢澤君、乳酸菌の研究をしなさい」と言われたことが、現在の予防医学の研究につながる起点になったのですから、面白いものです。
     

    ――大学時代の乳酸菌の研究が、卒業後の進路に直結したわけですね。

     そうです。卒業論文も乳酸菌が持つ酵素についてでした。乳酸菌シロタ株で有名なヤクルト創業者の代田稔先生は京都大学医学部の出身で、当時ヤクルトの代田研究所は京都にありました。私は代田先生ご自身に面接されてヤクルトに入社しました。ヤクルトでは、今でいうプロバイオティクス、整腸作用の研究をしていたのですが、上司から菌体成分を物質レベルで研究してみたらどうだと提案されて…。菌体というのは加熱して菌は死んでしまっている状態のこと。菌は死んでいるのですが、その成分にプロバイオティクスの効果があるのではないかと考えたわけです。例えば乳酸菌が免疫機能に効果があることは知られていますが、それには菌体で十分なのです。ただし1日に1兆個ぐらい、毎日乳酸菌の菌体を摂取しないと免疫機能は上がりません。生きている乳酸菌の整腸作用についてはそれ以下の数でも効果があるのですが。
     

    ――毎日1 兆個もの菌体を摂取するのは大変そうです。

     それが現在の専門である機能性食品の研究につながるのです。飲み物や食べ物でそれだけの数を摂取するのは大変ですから、どうやって効率よく摂取するかを考えようと思ったわけです。
     

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