医系大への羅針盤 医歯薬進学

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  • pickup201803
  • 2018.02.13
  • 医科と歯科の融合を目指して
  • 口腔がんの患者を診たことがきっかけで医学部へ。
    「医歯連携」で日本の先進治療に挑む、熱き志士。

    筑波大学医学医療系顎口腔外科学 教授
    筑波大学附属病院 副病院長 武川 寛樹(口腔外科医)

     

    眼も耳も鼻も医師の領域なのに、なぜ口と歯に限っては歯科医師の仕事として分けられているのだろう-そんな疑問を抱いたことはありませんか。今回は、医師と歯科医師、両方の免許を持つ「ダブルライセンス」の武川寛樹先生に、医歯連携の課題と展望について、お話を伺いました。

     

    歯科兼医科のドクターになるまで

    ーどのような経緯で2つの免許を取得されたのですか?

     日本歯科大学の学生だった頃、他の大学の医学部に行っている友人に、夜に解剖をしているが見学に来ないかと誘われて、その大学へ行きました。その時に見回りに来た医師が、名乗った私に怒鳴るどころか「頑張りなさい」と言ってくださった。そのオープンな空気に触れて、強く医学部進学を意識しました。

     歯大を卒業後、口腔外科医局で進行性口腔がんの患者さんにお会いしたのも大きいですね。どう治療すればいいのだろうと悩み、口腔外科の先生に聞き、もっと詳しく知りたくて内科の先生を訪ねました。でも当時の歯学部勤務の内科医は早く帰るんですよね。困った私は勤務を終えた後、独学を始めたのですが、いつも疲れて机に突っ伏して寝てしまう。そのうち、「待てよ。全くの素人でも6年間で医者になれるシステムがあるじゃないか」と気づいて…(笑)。やはり医学部に入ろうと決めました。

     

    ー6年間ということは、編入ではないのですね。

     はい。編入制度は当時はほとんどありませんし、今もまだまだ少ないのが現状です。例えば当時、医学部編入で代表的な大学だった大阪大学では、歯科大卒業生は、歯科「医師」ですから、すでに資格があると見なされ対象外でした。私は歯学部6年(口腔外科医局1年)、予備校1年、医学部6年で、トータル13年かかりました。最近はさらに歯科で1年、医科で2年の臨床研修が必修ですから、プラス3年ですね。

     

    ー費用面でも勉強面でも大変そうです。

     そうです。予備校に入った当時、Aから始まるクラス分けで私はVクラスでしたから、優待もなく、授業料が高額でした。そこで「歯大を卒業したけれど、どうしても医学部に行きたい」と相談したら、「そんなに勉強したいのか」と言ってくれて、ありがたいことに少し授業料を安くしてくれました。
     
     予備校時代は我流を抑え、与えられたシステムどおり素直に勉強しました。それが良かったのか10カ月後にはAクラス生になり、費用負担が少ない国公立の医学部に合格できました。関東近辺の国公立は難関なので望み薄と思いましたが、共通一次試験の点数が思いのほか良かったんです。
     
     筑波大学の二次試験は当時、科学論文を読んだ上で設問に答える、小論文の問題でした。前年は私の選択していない物理学の論文でしたが、その年は運良くナトリウムイオンとカリウムイオンの論文だったので、歯科の知識が生きました。縁があったということでしょうね。

     

    口腔外科では希少な存在

    ー晴れて医師の国家資格を取られてからの進路は?

     医学部卒業時点ですでに13 ~ 14年かかっているので、効率よく経験を積まねばなりません。そこで、事情をご理解くださるダブルライセンスの先生がいる口腔外科の大学院(横浜市立大学)に進学し、1995年に飛び級で修了しました。また同大医学部口腔外科学講座に入局後、同大医学部外科学講座に学内留学して、最も症例の多い関連病院の外科教室に派遣していただきました。
     
    また同大医学部形成外科学講座でも勉強させていただきました。2002年、千葉大学医学部附属病院での勤務を経て、2009年に筑波大学教授になりました。多くの修羅場も経験して、いろいろなことを学ばせていただきました。
     
     ダブルライセンスを取った直後は両方持っていることが誇りでしたが、それだけでは何の役にも立ちません。資格があって初めてちゃんとしたトレーニングが可能になるスタートラインに立ったということです。本当は内科も麻酔科も経験したかったのですが、口腔外科の主任教授に「人生は短い」と諭されて諦めました。

     

    ー口腔がんの患者さんを診たことが医学部進学のきっかけとのことですが、口腔外科にはダブルライセンスの先生が多いのでしょうか?

     いいえ、現役のダブルライセンスの口腔外科医は6人しかいません(2017年10月現在)。日本では、ほぼ「口腔外科医=歯科医師」です。

     医師免許だけを持っている口腔外科医も1人か2人。新たな専門医制度では医師は皆、何らかの専門性を持たねばなりませんが、その選択肢に、歯科の一種と見なされている口腔外科は入っていません。ですから、このままでは今後ますます口腔外科に行くダブルライセンスの医者は減るでしょう。我々は自分たちのことを絶滅危惧種だと思っています…(笑)。
     
     口腔がんは、死亡率が約半分と言われます。口の中は見えるので比較的早期発見が可能なはずですが、医師は咽頭を診ても口腔全体はあまり診ません。そして歯科医師は、発生率が全がんの1~2%と言われる口腔がんを目にする機会がほとんどなく、気づけない可能性がある。現状では、口腔外科医が外科のトレーニングを積むのが、口腔がん患者さんのためには良いのでは、と私は思っています。

     

    ー他の国も似たような状況なのですか?

     いえ。欧州をはじめとする先進諸国の口腔外科医の多くはダブルライセンスです。ドイツやフランス、英国、スイス、オーストリアなどでは、ダブルがスンダートです。米国もボストン大学やハーバード大学では、医師免許と歯科医師免許を4年間ぐらいで両方取らせるシステムになっています。米国西海岸は現在、移行期のようですね。
     
     オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士の『雇用の未来』という論文に、AI(人工知能)が発達しても残る職業のランキングがありました。その第9位が口腔外科で、医者の中では1番です。15位が内科医と外科医、19位が歯科医師でした。オズボーン博士は英国の学者ですし、ここで言う口腔外科医はダブルライセンス医師のことではないでしょうか。海外では口腔外科は大変魅力的とのことで、当科にもフランスやロシアの医学生が見学に来たりしています。
     
     もちろん、ダブルでなくても日本の口腔外科医には、オペが上手な立派な先生がいっぱいいらっしゃいます。でも、がんは全身に転移し得るので、医師のトレーニングもしたほうがいいし、できれば外科も経験したほうがいいだろうと私は思います。

     


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