医系大への羅針盤 医歯薬進学

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  • 2017.10.17
  • 心臓は命を刻んでいる臓器。命そのものを手中にしているという覚悟が、茨の道を進ませる
  • 日本屈指の心臓外科医が説く、「医者のススメ」

    昭和大学横浜市北部病院循環器センター 教授 南淵 明宏(心臓外科医)

     

    手術した数はこれまで4000例以上。年間200例以上、執刀している日本屈指の心臓外科医、南淵明宏先生。心拍動下(人工心肺を使わない)冠状動脈バイパス手術のパイオニアとしても有名です。人工心肺を使う手術が当たり前だった時代に初めてその手術に成功したときの秘話をはじめ、心臓外科医の仕事とやりがい、医師という職業の魅力や、医師としての気概・心得などをお聞きしました。

     

    医師とは「自由人」でいられる 仕事

    ―医師という仕事の魅力をどんなふうに感じていらっしゃいますか。

    なんといっても「人の役に立てる仕事」だということです。人に助言をすることができ、病気を直し、治療がうまくいけば感謝してもらえる。人の役に立ちたいというのは、誰しも考えることではないでしょうか。医師という職業は役に立てるのが歴然としていますし、達成感のある充実した人生を過ごすことができます。

    また、自由に自分の意見を言ったり、行動したりできます。「自由人」でいられるんですね。世の中には会社や色々な組織など強い力に従わなければならないことが多々あると思いますが、医師はある意味そういう秩序の外にいます。自分の腕一本で仕事を成し遂げることができる。自由な存在だということは、大きな魅力ではないでしょうか。

     

    ―先生ご自身はなぜ医師になろうと思ったのですか? 心臓外科を目指した理由もお聞かせください。

    小学校4年生のときに父が借金を残して失踪し、母が苦労をして私を育ててくれました。そんな母を喜ばせてあげようと思って医者を目指した、という単純なストーリーなのですが、それだけではなく、医者になることが経済的にも社会的にも成功者である、出世の道であるということを、高校生ながらに理解していたように思います。祖父が医者だったことにも影響を受けました。

    心臓外科医を目指したのは、一人前になるのが一番難しいからです。心臓外科医を目指した10人のうち1人がなれるかなれないか、 10学年で1人まともに手術ができるようになるかどうか、の狭き門です。心臓という臓器の性質上、ミスをすれば患者さんは死んでしまう。誰に聞いても、心臓外科医になるのは茨の道だということに異論はないでしょう。それならよけいチャレンジしてやろう、と思ったのです。

     

    心臓は命を刻む臓器 覚悟をもって対峙する

    ―先生は毎日どのようにお仕事をされているのでしょうか。

    昭和大学病院で、外来で初診や再来の患者さんを診るのが週に1日、手術は週に3~4日、年間で200人以上行います。心臓の手術をした方には3カ月に1回来ていだきますので、現在1000人くらいの方に来院いただいています。長い方だと、20年くらいのお付き合いになりますね。

     

    ―元患者さんだった人に声をかけられることも多いそうですね。

    昭和大学病院以外の所でも、以前診た患者さんやそのご家族の方に、「先生に手術をしていただきました」「10年前に祖母が…」などと、よく声をかけていただきます。また、診察の予約のない日に私のところに来て、「南淵先生の顔を見に来ました。先生のお顔を見たら元気になりました」と言って帰っていかれる患者さんもいます。

    こういう患者さんたちを見るにつけ、私は、心臓手術の経験は人生の一つの大きな歴史として患者さんの心の中に刻み込まれているのだと実感します。私の扱っている心臓はまさに命を刻んでいる臓器です。誰が手術をしたのか、患者さんは必ず覚えていてくれるものなのです。

    心臓を手術するということは、その人の全存在が、まさに医師である私の手の中にあるということ。人の存在すべてと正面から向き合わせていただけるのは、とても価値あることです。その分、覚悟をもって対峙しています。

     

    ―とても重たい言葉ですね。

    今でも胸に突き刺さっている痛みが私にあり、その痛みが学びとなって、私をここまで引き上げてくれたのだと思います。お話ししましょう。

    駆け出しの研修医の頃、アルバイトに行っていた病院で、救急車で運ばれてきた患者さんを担当しました。30代の女性で、X線で撮影したら肺が真っ白、腎不全にもなっていました。命の危険が迫っているのは明白でしたが、原因がまったくわかりませんでした。付き添ってきた若い男性に、「思い当たることはありませんか?」と聞いても暗い表情で黙っているだけ。事情はわかりませんが、女性は農薬を飲んで自殺を図ったのだろうと推察しました。

    さらに男性に質問したとき、男性が私の名札を見ました。とっさに私は名札を手で隠しました。今考えるととても恥ずべき行為ですが、私はその病院の人間ではなくアルバイトの身、患者さんが苦しんでいるのに何もできない自分が恥ずかしかった…。そのとき、男性がものすごく悲しそうな顔をしたんです。その表情を、私は生涯忘れません。

    その女性は翌日に亡くなり、男性も行方がわからなくなりました。

    あの日から私は、患者さんやそのご家族、関係者に、自分の顔と名前をしっかり出して、一人の人間として対峙することを自分に誓いました。二度と隠すような真似はすまいと。全責任を自分が負うのだと。

     


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